【第3回】コロナ禍を機に「未来が見えるようなシステムをつくりたい」 (有)キホク 代表取締役 上田 剛士氏(愛媛)

(有)キホク 代表取締役 上田 剛士氏(愛媛)

 コロナ禍は飲食業のみならず、その周辺業界にも大打撃を与えました。松山市で貸おしぼり業を手掛ける(有)キホク(上田剛士代表取締役、愛媛同友会会員)も、取引先の休業や閉業により一時は売上が半減。そんな中、将来を見据えて社員の働きやすい職場づくりに挑戦し続けてきた取り組みを紹介します。

事業承継と立て直しへの挑戦

 キホクは上田氏の父親が創業したおしぼり業者です。松山市と今治市の飲食店などを対象に、布おしぼりレンタルや紙おしぼり販売などを手掛けています。

 上田氏は1999年に入社。2010年、売上が落ちていく状況を立て直そうと事業承継しますが、直後に上田氏の方針に反発する配送社員が全員退社するという大事件に見舞われます。藁をもすがる思いで同友会に入会して経営指針を成文化、全社一丸の経営で会社を立て直してきました。

 「えひめ仕事と家庭の両立応援企業」の認定を受けたり、「障害者雇用優良事業所努力賞」を受賞したりと、職場環境の改善にも取り組んでいます。

新型コロナで売上半減!から社員を守る決意

 業績を順調に伸ばし、2019年はまさに絶好調。続く2020年もいいスタートを切りましたが、3月のWHOによる新型コロナウイルス感染症の世界的大流行宣言、4月の日本国内の緊急事態宣言以降、売上を大きく落としました。前年の半分以下になった月もあったと言います。

 新型コロナが飲食店に与える打撃、それが自社にもたらす影響の大きさを痛感した上田氏は、社員の不安を取り除くため、全体朝礼で4つのことを宣言します。

1.第一に、社員みんなの心と体を守ります。
2.社員の給与は休業になっても毎月100%支給します。
3.自分の給与を減らしてでも、会社はつぶさない。
4.コロナ対策として、健康経営で免疫力向上・感染対策・BCP作成に取り組みます。

 早い段階で金融機関から借り入れを行い、資金繰りの強化を図りました。また、コロナ対応の補助金を活用し、布おしぼりに抗ウイルス液を自動投入する装置を導入、商品の高付加価値化にも取り組み、地元新聞で報道されると大きな注目を集めることになります。

 さらに健康経営に取り組み、2021年と2022年には、健康経営優良法人ブライト500の認定を受けるまでに、職場環境を改善しました。

DXで未来が見えるシステムを

 コロナ禍の暗い中でも、社員が元気に働いてくれるようになったことを喜ぶ半面、売上は回復せず、上田氏は悩みます。

 その時に注目したのが、「DX」でした。それまでのキホクは、いわゆるアナログ企業。例えば受注して販売管理ソフトに入力するまでに、伝言や手書き転記のミスが発生していました。

 これを何とかしようと2022年、松山市中小企業振興円卓会議事業として愛媛同友会が実施している「松山DX勉強会」や愛媛大学データサイエンティスト育成講座を受講。DX専門社員を1名雇用し、社内での情報共有システムや電子決済の導入、ネットショップの開設など、加速度的にDXを進めました。

 さらに、松山市のDX推進補助金を活用し、「AIおしぼり納品予測配送支援アプリ」の開発にも着手。この取り組みは地元紙や地元テレビのみならず、全国でも紹介されました。

 「DXに取り組む過程で業務の洗い出しができ、社員間やお客様とのコミュニケーションの場が増えた。デジタル化した後は業務が短縮され、ミスも減り、生産性・効率がアップした」ことを成果の一つとして挙げています。

 2022年度決算は、飲食店の営業再開もあり売上が回復しつつあります。

 「同友会でつながり、学び、実践してきたことで危機を乗り越えることができた」と言う上田氏。「未来が見えるようなシステムを作ろうと考えています」と語る姿が印象的でした。

会社概要

(有)キホク
設立年 1974年
資本金 700万円
従業員数 14名(内、パート・アルバイト2名)
事業内容 貸おしぼり業
住所 愛媛県松山市古川南3-27-15
電話番号 089-957-9005
URL http://kihoku.biz/