【第5回】車を通して地域課題の解決をめざす (株)大江車体特装 代表取締役 大江 晴久氏(山形)

(株)大江車体特装 代表取締役 大江晴久氏(山形)

 (株)大江車体特装は、山形県山形市で特装車製造・商用車架装・モビリティサービスを営んでいます。同社代表取締役の大江晴久氏(山形同友会会員)は、2014年に同友会に入会し、同友会で得た学びを自社で実践するサイクルを繰り返しながら、よい職場環境づくり、よい会社づくりに邁進してきました。

幸せを語り合う企業

 同社は、1862年に大江氏の高祖父が人力車の製造・販売業として創業。大江氏で5代目、昨年創業160年を迎えました。時代の変遷とともに、自動車産業へ参入し、事業の集約と集中で「車の何でも屋」からの脱却を目指し、消防車・救急車などのはたらく車や霊きゅう車の開発に特化。地域の社会生活に必要なモビリティ製造に的を絞り、自社を「快適LIFE創造支援業」と定義し、事業展開しています。

 大江氏が山形同友会に入会した当時、「お金さえもらえればあとは関係ない」と言う社員との争いが絶えず、社員定着率の低い会社でした。業務の効率化と共有化を図ろうとしますが、データよりも勘と経験を重要視する職人とぶつかることが多かったといいます。同友会に入会し「悩んでいるのは自分だけではない」と勇気づけられ、報告やグループ討論から気づきを得ては、自社で実践を繰り返しました。あいさつや履物をそろえることに始まり、自身の伝え方も見直し、社員へ問いかけるアプローチへ変えました。

 日々の実践の中で、「ルールを守ろう」という社風が生まれ、少しずつ笑顔とコミュニケーションが増えてきました。そして、さまざまなことを教え合う文化ができ、社員と「幸せ」について語り合う会社へと変わりつつあります。大江氏は、「よい働く環境をつくろうと思って取り組んだことが、結果としてよい会社づくりにつながった。社員、家族、取引先、そのすべての幸せが増えることが企業価値だ」と語ります。

持続可能な社会に向けた新たな価値の創造

 霊きゅう車の開発に携わったのは、専務に就任した時でした。ゼロからのスタートとなり、手探り状態の中、日々の業務の合間を縫って二年間の開発期間を要しました。霊きゅう車の製造販売は、同社の大きな柱となりましたが、2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、葬儀様式が変わったことで、注文のキャンセルが続きました。新しい柱づくりが急務だと考えた時に浮かんだのが、東日本大震災に際して社業を通して何もできなかったという現実でした。「ライフラインを供給する車両をつくれないか」と震災後10年間練っていた構想を形にするのは、時間を確保できる今しかないと2021年4月に開発着手しました。

 霊きゅう車の開発で、開発期間が長すぎると社員の疲弊につながることを経験値として持っていた大江氏は、想いに共感してくれる資材メーカーに水道、ガス、電気機器の開発を委ね、車体の開発製造に専念しました。各資材メーカーの機材を連結させて搭載させることで開発期間を5カ月間に抑え、2021年9月災害支援車LCXを発表することができました。LCXは「Lifeline Customization Transformation」を略したもので、ライフラインに特化して改良を施した特殊車両という意味が込められています。災害支援車は山形市にも導入され、全国へも広がりつつあります。

 LCXはライフラインが遮断された災害時だけではなく、ライフラインが整っていない開発途上国(発展途上国)の生活支援にもなるのではないかと考えJICA(独立行政法人国際協力機構)とも相談しながら、海外展開も視野に入れ事業を進めています。

 同社は、10年ビジョンに「持続可能な街づくりへの貢献」を掲げています。霊きゅう車や災害支援車の開発で得たノウハウを、車+通信、車+医療など新たな価値創造に生かすためにさまざまな取り組みを行っています。「共有する」をテーマに自社だけで走るのではなく、想いを共有する社員や企業同士が連携することで地域の課題を解決する新たなサービスや事業を生み出し、安心・安全で持続可能な地域社会づくりに貢献できる企業にしていくために挑戦し続けます。

(株)大江車体特装
創業年 1862年
設立年 1963年
資本金 1,000万円
従業員数 13名
事業内容 特装車製造、商用車架装、モビリティサービス
住 所 山形県山形市相生町8-23
電 話 023-641-4057
URL https://www.tokusou.co.jp/