【第7回】「伊勢乃」の原点をすべての社員に 伊勢乃 代表 小村真之介氏(三重)

伊勢乃 代表 小村 真之介氏(三重)

 三重県四日市市で垂坂本店と近鉄百貨店四日市店の二店舗を経営する伊勢乃(小村真之介代表、三重同友会)は、季節感あふれる厳選素材のお弁当とおこわを製造販売しています。「一生懸命だしから取って作ったお弁当が、お客様を笑顔にできる。だからこそ、一つ一つを、丁寧に心を込めて。そして自分が食べたくなるお弁当、自分の大切な人や家族に胸を張って食べてもらいたいお弁当しか販売しない」。このような小村氏の信念のもと、こだわりぬいて作られたお弁当やおこわを求めて、日々たくさんのお客さんが店舗に訪れます。

「伊勢乃」の原点に立ち返る

 伊勢乃を経営する小村氏は、2019年に同友会に入会。2022年度には「経営指針成文化セミナー」を受講して経営指針書を作成しました。

 経営指針の冒頭には「伊勢乃の原点」として、次のような会話が掲載されています。

社員「いらっしゃいませ!今日はどのようなお弁当をお求めですか?」
お客様「実は、母が誕生日でして…お弁当をプレゼントしようとおもいまして…」
社員「それはおめでとうございます!よければせっかくなので、お誕生日弁当を作りましょうか?」
お客様「え?そんなことできるんですか?じゃあお願いしていいですか?」
社員「お母さんはおいくつ(何歳)くらいですか?好きな食べ物や食べてもらいたいものはありませんか?今日は〇〇がおススメですがどうでしょう? 硬い食べ物はだめではありませんか? 折箱のサイズはこれくらいでいきましょうか? お祝いなので、ご飯はお赤飯でどうでしょうか?…お待たせしました! こんな感じでどうでしょうか? 最後にかわいい風呂敷をしておきますね!」
お客様「わあ! すてきです! ありがとうございます! きっと喜びます!!」
後日…「先日はありがとうございました! とっても喜んでくれました!」と今度はお母様と一緒に来店してくれました!

 伊勢乃の原点であり強みは、このようにお客さん一人ひとりのニーズやお弁当を食べるシチュエーションを丁寧に聞き出して、それに合ったオリジナルのお弁当を提供することにあります。本店では、いつも小村氏や社員とお客さんとの楽しい会話のやりとりが響き渡ります。誰が、いつ、どこで、どんな場面でお弁当を食べるのか。お客さんとのコミュニケーションを通じて要望を引き出していく姿は、伊勢乃が創業以来大切にしてきた独自の価値観です。

 経営指針の成文化を通じて、このような経営の原点に立ち返ることができた小村氏は、自社の使命を「お弁当を通じて人と人とのつながりを深め、より豊かな人生に貢献すること」とし、経営の目的をより明確にすることができました。

一人ひとりが主体的に考えて行動できる組織に

 「創業当時は、自分自身が接客・電話応対など、なんでも一番にならなければと考えていたが、同友会や経営塾での学びをきっかけに、社員の力を生かし、共に成長していこうという考えに変わった」と小村氏。経営指針作成後、継続学習の意義を社員と共有し、伊勢乃で働くすべての社員に、経営に関するセミナーを受講する機会をつくりました。

 そして各店舗で一人ひとりに対して「伊勢乃の目的(果たす役割)」を考えてきてもらう課題を出しました。

 すると、普段はおとなしいある社員が、
・お客様が喜ぶこと
・迅速丁寧にお弁当を提供すること
・お客様の要望をできるだけ伺うこと…
などと一枚の用紙にメモをまとめてきて、たいへん嬉しかったといいます。

 「一方的に考えを押し付けるのではなく、一人ひとりに考えてもらうことで、社員が自分の頭で考えて行動するようになり、伊勢乃の使命が一気に浸透した」と小村氏。

 「自身の経験や勘、ひらめきだけを頼りに経営していた」という創業当時に比べ、社員一人ひとりが主体的に考えて行動できる組織に大きく変化してきました。小村氏自身の意識改革と社員を学びに巻き込むことを通じて、お弁当を食べる人に思いを馳せ、食を通じて人と人とのつながりを深めることを大切にする伊勢乃の原点が、徐々に社員に浸透しつつあります。

伊勢乃
設立年 2017年
従業員数 13名
事業内容 おこわ・お弁当の製造販売
住所 三重県四日市市垂坂町393-6
電話番号 059-336-6969
URL https://iseno.jp/