【第16回】すすきのを舞台にジンギスカンを通じて、北海道の食文化の素晴らしさを発信 (株)ブレンドワークス 代表取締役 前川 裕一 氏(北海道)

(株)ブレンドワークス 代表取締役 前川 裕一 氏(北海道)

 札幌・すすきので、ジンギスカン専門店を5店舗経営する前川氏((株)ブレンドワークス代表取締役、北海道同友会会員)。漫画で経営理念を社員と共有するなど、社員と共にさまざまな課題と向き合いながら進化を続けています。

差別化とドミナント戦略で多店舗運営に成功

 前川氏は、先輩の友人3名と共に2005年に札幌市・すすきのにジンギスカン専門店をオープン。店名はビルの10階に位置し、店内から札幌の夜景が見えることから「夜空のジンギスカン」と名付けました。

 北海道最大の歓楽街すすきのには開業当時、東京ドーム約3個分のエリアに100店舗以上のジンギスカン店がひしめいていました(現在は250店舗以上)。「普通にやったのでは埋没してしまう・・・」。そこで産地や部位ごとのお肉の提供やしょうゆタレ、みそタレ、ハーブ塩の3種の味を用意し、これまでの「ジンギスカンは肉やタレはこだわりの1種類」という常識に挑戦しました。またターゲットは家族連れや観光客、接待向けにしたため、店構えは既存のジンギスカン店の対面・カウンターメインと異なる、テーブルや座敷を多く作ることでじっくりと食事を楽しめる形態にしました。この差別化があたり初年度から売上5,000万円を達成します。

 翌年には同じビルの9階に2号店を出店し、1号店は生ラムジンギスカン、2号店は味漬けジンギスカンと異なるメニューを提供することで、リピート客の呼び込みにも成功します。

 その後、100メートル圏内に連続して出店し、空席のある他店舗へお客様を誘導し機会損失を解消すると共に回転効率を向上。新しい店舗が近隣にできることは、各店舗の競争心や刺激が生まれるメリットにもなりました。

コロナ禍を社員と共に乗り越える

 2020年2月からはじまったコロナ禍は、すすきのから人を奪いました。多くの飲食店が営業を自粛しなければならなくなり、前川氏の店も同様でした。売上は大幅に落ち込みましたが、前川氏は従業員の給与や家賃の支払いを継続することを最優先し、従業員たちに不安を感じさせないよう連絡を頻繁に取り合い、励まし合いました。

 「感染拡大のニュースが絶えず流れ、当然のように観光客は激減。地元も含めたお客様の足は遠のき、自店舗も営業を自粛せざるを得なかった。毎日社会から存在を否定されているような気持ちだった」と当時を振り返ります。膨大な借り入れや納税等の猶予を要請する日々で極度の不安に襲われる厳しい状況下でしたが、同友会の仲間の中小企業診断士のアドバイスも受け、未来のビジョンを描くための10年シミュレーション表を作成、それが前川氏の心の支えとなりました。

 店舗営業ができなくなった時間を利用して、新しい味付けの真空パック商品を開発。その商品は大手スーパーで取り入れられ、コロナ禍での売上確保に大きく貢献しました。同時に、「ご家庭に夜空のジンギスカンの味を届ける」という自社の存在価値を認識し、ECサイト構築のきっかけにもなりました。

経営者の役割とは

 起業と同時に同友会に入会。札幌支部・青年部未知の会の代表世話人を2期4年務め、2016年からは札幌支部幹事長。20年より全道組織・企画委員長として活躍しています。

 経営指針は、経営指針研究会の活動を経て2014年に成文化。社員と共有しやすいようにと漫画で伝えています。

 コロナ禍が収束を見せ、すすきのエリアには観光客を含めた多くの人が以前を超える勢いで戻ってきています。前川氏の店も連日盛況で、新たな柱となった真空パック商品の販売も好調です。

 一方で、いま飲食業には人手不足、原料値上げや賃金上昇への対応などの課題が押し寄せています。前川氏はいち早く労働環境改善や報酬増加などに取り組み、タッチパネルによるセルフオーダーシステム導入などでの効率化とオペレーション改善による生産性向上も進めました。また、さらなる現場負担の軽減には、センターキッチンの設立も必要と考えています。

 「社員と共にビジョンを共有し、安心して楽しく気持ちよく働ける環境を提供するのが経営者の役割」と語る前川氏。今後も、社員と共に自社のブランド価値を高めながら、魅力ある北海道の食文化の創造と発信に取り組んでいきます。

(株)ブレンドワークス
設立 2005年4月
資本金 1,000万円
社員数 17名(アルバイトスタッフ60名)
年商 5億2千万円(2023年6月決算時)
事業内容 飲食業、食品販売業
URL https://www.yozojin.com/