【第18回】全社一丸で地域のインフラを支える 安田産業汽船(株) 代表取締役 安田舟平氏(長崎)

安田産業汽船(株) 代表取締役 安田舟平氏(長崎)

コロナ禍での代表就任

 安田産業汽船(株)(安田舟平代表取締役、長崎同友会会員)は長崎空港やハウステンボスといった長崎の主要個所を結ぶ連絡航路や、福岡県の海の中道と百道を結ぶ航路、さらにはビジネスホテルといったまさに地域のインフラ事業を営んでいます。創業は1953年、祖父によるもの。3代目となる安田舟平氏は東京消防庁で心も体も鍛錬していた矢先、「帰崎」指示があり、家業に取り組むことになります。

 そして安田氏の前に立ちはだかったのがコロナ禍です。人の流れが滞り、連絡船のみならずホテルの稼働率も一気に落ちました。借り入れも増え暗雲立ち込めるなか、出資先の会社からの指示はこれまでの社風を変えるための「社長交代」。2代目である叔母に代わり若き安田氏が代表取締役に就任します。経営に関して右も左もわからない安田氏はそれでも覚悟を決め、一歩を踏み出しました。

外部との関係性×自社の強み

 代表に就任してまず考えたことは地域とのリレーションシップの構築。同友会への入会もその選択肢の一つです。行政の相談窓口にも足しげく通い、さまざまな補助金が活用できることを学び、担当の方と面談を繰り返すことでいろいろな情報をもらえるようになりました。また現在は、地域の方々とさまざまな連携を模索しながら飛行機を降りてから始まる新しい海の観光商品の開発にも取り組んでいます。また長崎空港へのアクセスが悪い県北地区に対しても地元のバス会社とタッグを組み、陸路・海路を合わせた新しい広域交通網形成に資する事業展開や、東京の会社とコラボしての乗船券のDX化など、コロナ禍で打撃を受けた航路事業の改革を推し進めています。航路事業はまだまだ厳しい経営環境が続きますが、地域のインフラを支えるという信念があるからこそ踏ん張れます。「今までの強みを生かした観光商品の開発や海のコンテンツを増やすといった新しい挑戦に取り組み、地域との関係をつくっていきたい」と語る安田氏の目には強い決意が溢れています。

共に進む

 外部との関係性を構築し経営を立て直すうえで、支えになったのが社員でした。代表になったからといって一人では何もできません。ホテルのフロント業はもちろん、船に関する業務など、とにかく現場で仕事を覚えながら社員の声に耳を傾けました。時には心が折れそうなほど厳しい意見をもらうこともあったそう。しかし上に立つ人間ほど皆を引っ張るだけでなく、気遣いができる人間でなければならないと、消防士時代の上司に教わったことを実践し、謙虚に愚直に現場の課題を吸い上げ業務の改善を図っています。

 同友会で学び、障がい者雇用にも今年から取り組みました。障がい者の就労支援を行う同じ支部の会員と連携し実習を受け入れ、いまではホテルの清掃スタッフとして活躍しています。

 「わが社は地域にあってよかったと思ってもらえる企業になりたい」と何度も話す安田氏。雇用を守り、社員との信頼関係を深め、それぞれの事業に携わる社員が自分の仕事とその存在価値に誇りを持ち、活躍できる企業をつくりたいと語ります。

 長崎の夏の風物詩「ペーロン(ドラゴンボートレース)」をこよなく愛する安田氏。ペーロンは一人で漕いでも前には進みません。漕ぎ手と銅鑼、太鼓、舵取りが一体となって歩調とリズムを合わせ並みいる強敵に負けないように、その切っ先を前へ前へと推し進めます。それはまるで今の自社を映す鏡。一人ひとりの役割を理解し、認め合い、協力して一丸となって前へ進む自社において、安田氏は時には現場という漕ぎ手に、鼓舞する銅鑼に、そして行く先を見定める舵取りになりながら船を推し進めています。その先に見える水平線に向かって今日も安田氏を乗せた舟は波を掻き分けていきます。

安田産業汽船株式会社
設立 昭和28年7月設立(個人事業) 昭和42年2月10日(設立登記)
従業員数 正社員18名、パート・アルバイト51名 合計69名
資本金 1,000万円
業務内容 一般旅客定期航路事業 ・旅客不定期航路事業 ・ビジネスホテル業 ・海上タクシー業
所在地 〒850-0921 長崎市松が枝町5番35号
電話番号 (095)826-0188
URL https://yasuda-gp.net/