【第19回】『いいがにする！』を社内と地域の隅々に 東工業（株）　代表取締役　東　秀佳氏（富山）

東工業（株）　代表取締役　東　秀佳氏（富山）

　東秀佳氏（東工業㈱代表取締役、富山同友会会員）は、氷見市内で建築・土木工事を営む東工業に2007年に入社しましたが、2年後の2009年に父である社長が急逝するという事態が起きました。
　急遽、母が代表取締役、自身が代表取締役専務として経営に当たりますが、当時、社内では諍いやもめごとが日常茶飯事。工事を受注しても担当者の押し付け合いで、会社の構内はいたるところにたばこの吸殻やゴミが落ちていて誰も拾わない、という有り様でした。中途採用者の入社と退社が繰り返される状態が続き、「絶対に会社はつぶせない」という重圧に飲み込まれそうな日々でした。
　そんな中、2011年7月に地元の先輩から誘われ同友会に入会、同年10月に第17期経営指針を創る会を受講し翌年すぐに社内発表しました。とにかく「少しでもよい会社にしたい」の一心でしたが、発表直後の社員の反応は冷ややかでした。それでも、その後の懇親会で何人かの社員から、「俺はいいと思う」と言われ大いに勇気づけられました。
　そこから経営理念に向かって地道に取り組んでいく過程で、東氏の言うことに社員が少しずつ耳を傾けてくれるようになりました。社内制度の改善、現場管理の可視化、業務の合理化や効率向上などを進めました。その結果、業績も社内の雰囲気もある程度よくなりましたが、辞めていく社員はなかなか減りませんでした。

未来ある若者を採用したい

　若者を採用できない現状に危機感を感じ、2013年から新卒採用に取り組む決意を固めました。早速ハローワークに求人票を出すと、なんとすぐ新卒第1号となる女性が入社してくれたのです。いま思えば奇跡的な出来事なのですが、その時は正直、意外と簡単なものだなと思っていたといいます。
　その後、2016年に市主催の高卒求人説明会に参加しましたが、自社ブースには誰も来てくれません。翌年からは同友会の共同求人活動にも参加しましたが、数年間はまったく成果が出ませんでした。「自分一人でやっていてはダメだ」と感じ、同友会の仲間の専門家に協力してもらいながら、学校訪問や広報活動に取り組んだところ徐々に効果が表れ始めました。新卒採用を決意してから9年目となる2021年からは3年連続で新卒者を迎えることができています。

　ところが、2020年に新卒第1号の社員から退職したいと告げられました。「自分の年齢や将来を考えると、自分のやりたいことがこの会社にはない」というのが理由でした。退職の相談を受けた時、開口一番、「申し訳なかった」という言葉が自然と口からこぼれました。
　このことが、本当に会社のため、社員のためを考えたとき、社長である自分はどのような気持ちや言動で社員と接するべきなのかを深く考えるきっかけになったと言います。
　そこから経営指針を全面的に見直しました。毎朝出社してくる社員一人一人に声をかけるなど社員と話す時間を増やし、年2回行う全社員面談も続けていきました。さらに学校からの要請で生徒の職場体験やインターンシップを積極的に受け入れたことも社内によい影響をもたらしました。

素晴らしい人間になってほしい

　新卒社員の入社が続き、若い社員が増えたことで社内の雰囲気がさらによくなりました。2020年以降は定年退職以外の理由による退職者は出ていません。今年7月にはユースエール認定も受けました。それと比例するように、携わった工事物件が各方面で表彰される機会が増えていきました。現在は、ベテラン社員の力を借りながら若い社員をどう育てて、素晴らしい人間になってもらうかが同社の一番の課題となりました。
　今年1月からは若手社員による社内勉強会がスタート。仕事が終わった午後5時30分から2時間、社長と若手社員による自主的な勉強会です。これまで週2回ペースで計76回実施しています。きっかけは、ベトナム人の社員に業務を理解してもらうため社員と社長の二人で始めたことですが、次第にそのほかの社員も参加するようになりました。一級建築士資格取得用のテキストを題材に建築施工を学ぶものや社内業務を理解するもの、さらに2級建築士資格取得対策など、その時々で内容を決めて進めています。

「いいがにする」会社として

　東工業の経営理念には「いいがにする」というフレーズがあります。「いいがに」とは、富山弁で「いい具合に」という意味です。
　「新卒採用に取り組んだ10年間を振り返ると、会社は確実に変わったと言えます。若い人たちががんばると自分を含めほかの社員もがんばろうと思うものです。これがわが社の独自性だと言いたいところですがまだ始まったばかりです。次のステージに向けて社員と共にがんばりたい」と語る東氏。社内に根付く「いいがにする文化」を深め、広げ、100年先も変わらず地域から愛され続ける会社を目指しています。