【第28回】若者に選ばれる業界へ (株)七黒 代表取締役 七黒 幸太郎氏(滋賀)

(株)七黒 代表取締役 七黒 幸太郎氏(滋賀)

 びわ湖の北西に位置し、京都や福井との中継地点として栄えてきた滋賀県高島市。この街に、(株)七黒はあります。代表取締役の七黒幸太郎氏(40歳、滋賀同友会会員)は大津市生まれの高島育ち。16歳の時に足場業界に飛び込み、お世話になっていた親方の廃業を受けて18歳で独立しました。

 ボロボロのトラックを走らせて地元の友人と一緒に仕事をしていたころは、多忙の中でも売上は順調でしたが、「経営」はしていませんでした。労働環境は劣悪でしたが「大変なんだからわかってくれ」と言うことしかできず、従業員は次々と去っていきました。

 そのような経験から、人が定着する組織をつくろうと決意をしますが、何から手を付ければいいのかわかりません。そんなある時、知り合いの方から「経営を学ぶなら同友会がいいよ」と薦められ、滋賀同友会に入会。

 出席した例会で聞いた「理念のない会社は目的地もなく船をこぎ続けるようなものだ」という言葉に、七黒氏は衝撃を受けます。まさに自社の姿そのものだと気づき、経営指針を創る会を受講。経営理念を創り、社内で発表し、指針経営をスタートさせました。

同友会運動と自社経営は不離一体

 社員に「理想の会社」についてアンケートを取ると、休みが多い、ボーナスがある、という回答がありました。会社の現状と理想とのギャップに唖然としながら、労働環境の改善や社員の自発性が発揮される組織づくりに取り組むと、現場にも入っていたこともあり目の回るような忙しさになります。プレイングマネージャーをしていた根本には、社員を信用していない自分がありました。

 そんな折、当時はまだ会員が27名だった高島ブロック長の打診がありました。自身と会社を成長させるチャンスだと七黒氏は快諾し、会社をすべて社員に任せることに。当初は社内から反発もありましたが、社員がお客さまと直接触れ合うようになり、仕事のフィードバックをもらえるようになると、それに励ましを受け自発的に行動するようになり、社員に主体性が身に付き一人一人が主人公になっていきました。

 また、七黒氏もブロック長としての3年間で、会員を27名から45名にまで成長させます。まさに、同友会運動と自社経営は不離一体、を体現してきました。

自ら業界の当たり前を変える

 そんな七黒氏ですが、自社の未来を創造するため、二つの新しい取り組みを始めました。

 その一つが、一般社団法人足場協会の立ち上げです。自社をよくするために、まず外部環境を整えていく。業界の当たり前に不満があるなら自分で変えてしまおう、との思いが共通している足場会社の経営者が集い、業界の経営体質をよくしていくことで業界全体の健全化をめざし、活動しています。

 2つ目に、足場事業者向けのマッチングアプリ「アシバッチ」を開発、配信したことです。足場業界では、繁忙期と閑散期があるのが常ですが、繁忙期には協力会社と、閑散期には他地域の仕事も受注したい、という需要と供給のミスマッチが生じていました。そこで、業界で助け合う文化ができれば、企業体質や労働環境の改善につながり、そして足場業界が若者に選ばれる業界になることをめざし、アプリを開発しました。

 この足場協会の立ち上げと、アシバッチの開発には全国の同友会の仲間の力を結集し、実現しました。とはいえ、業界では賛成1割、9割は否定的な見方で、結果が出ないと人は動かないことを実感。自社でも、はじめは新しい取り組みに社員も無関心でしたが、アプリの会員数が増えて、稼働している様子をみて、今では七黒氏の話を目を輝かせて聞いてくれるようになりました。

 今後は、足場工事事業・アシバッチシステム事業・システムと連携した物販事業を三つの柱として確立し、田舎の小さな町を拠点としていても、業績を上げることができ、労働環境を改善し、社員満足度を向上させることができることを証明し、中小企業発信の地域発展のきっかけとなることをめざしています。

(株)七黒
設立 2002年
資本金 500万円
従業員数 18名(うちアルバイト1名)
年商 1.6億円
事業内容 建設足場工事業、足場専用マッチング事業
住所 滋賀県高島市新旭町新庄588-1
電話番号 0740-20-1398
URL https://kk-shichikuro.com/