【第42回】時代の変化に合わせて会社をつくり変える　老舗企業の挑戦 （株）ユーネット　代表取締役社長　田中仁氏（大分）

（株）ユーネット　代表取締役社長　田中仁氏（大分）

ミシュランガイド日本唯一の三ツ星温泉施設

　日本一の源泉数と湧出量を誇る別府温泉。その中の一つ、湯煙が立ち上り風情ある鉄輪温泉で（株）ユーネット（田中仁代表取締役社長、大分同友会会員）はひょうたん温泉の経営を行っています。1922年（大正11年）に、創業者が妻のリウマチを癒すために温泉を掘り当てたことから始まりました。

　ひょうたん温泉は源泉かけ流し100％にこだわっています。源泉温度は約100℃の熱湯ですが、竹製温泉冷却装置「湯雨竹」を使用することで数秒で47℃にまで下げることができます。加水することなく自然の力のみで冷却することで、源泉のよさをそのまま体感することができます。また、浴場を清潔に保つため、営業が終わるとすべての浴槽のお湯を抜いて徹底洗浄しています。こうった取り組みが評価され、観光ミシュランガイドにて温泉として日本唯一の三ツ星を獲得しました。

　2017年に代表取締役に就任した5代目の田中氏は、「資源には限りがあり、今いる自分たちだけのものではない。次の世代の人たちから借りているものであり、利子をつけて返さないといけない」という思いを持って経営しています。2019年11月に女湯の面積を2.5倍に広げ、インバウンドを意識して立ったまま使える立ちシャワーを付けるなど、大規模リニューアルを行いました。

コロナ禍で売り上げ90%減

　ところが2020年新型コロナウイルスの影響でインバウンドや団体客が激減。毎月赤字が続き、売り上げは90%減となりました。田中氏は「今は苦しいかもしれないが、いずれ回復期が来るに違いない。今できることをしっかりとやろう」と決意します。まずは銀行に掛け合いコロナ融資など資金調達を行いました。次に以前から同友会で大切だと言われていた経営理念の作成に取りかかりました。経営理念を作成するにあたって、まずは先代の思いや考え方を知ることが必要だと思い、過去の文書を読んだり人から話を聞いたりしました。

理念に基づき全社員の雇用維持を宣言

　先代の思いを引き継ぎ「全従業員の物心両面の幸せの実現と大自然の恵みを活かして全ての人が持つ美しさを呼び起こす事に貢献する」という経営理念を作成。経営理念に基づいて、全従業員の物心両面の幸せを実現するために、一人の脱落者もなくコロナ禍を乗り越える覚悟を決め、全社員の雇用の維持を宣言。「会社の業績が悪いのは社長の責任。社員が悪いわけではない」と、コロナ禍でも決算賞与を出しました。

　昨年100周年を迎えたひょうたん温泉ですが、理念に沿って前例にとらわれることなく挑戦できる環境をつくりました。個人客にターゲットを定めて、「インスタグラムのフォロワー数1万人達成で入湯料割引キャンペーン」を行い見事達成。また、新商品として、温泉成分を練りこんだ「湯楽ゆらソフト」や地獄蒸しで作った「地獄蒸しプリン」、福岡県産あまおうと有機豆乳を使ったスムージー「湯ムージー」などを販売。売り上げはコロナ前の2倍、利益は3倍となり、今期も昨年の売り上げを超える予定です。

ワクワク、ドキドキをサポートして形に

　「社長の仕事は時代の変化に合わせて会社をつくり変えていくことです。今後は心の機能を開発・回復する物の時代であり、ワクワク、ドキドキをサポートして、それを形にしていくことが求められています」と語る田中氏。食事処の新メニューの開発や6次産業化、今年の６月に「ひょうたん温泉の朝市」の初開催、2028年には大型リニューアルを計画中と、時代の変化に合わせて老舗企業の挑戦は続きます。