
住田住宅産業(株) 代表取締役 中野 和人氏(岩手)
気仙大工の技を継承して

東日本大震災発災直後、津波被害を受けた陸前高田市や大船渡市の内陸に隣接した住田町内では、木工団地や製材所、建設会社が一致協力し住田町独自の一戸建て木造仮設住宅の建設がすぐに始められました。そのスピードと地元の住田町産材を使用した圧倒的な迫力に、全国から大変な脚光を浴びました。
その一翼を担った住田住宅産業(株)(中野和人代表取締役、岩手同友会会員)は、町内の森林組合、農業協同組合、建設業協同組合、製材業協同組合の各団体の出資でスタートしました。町長が代々社長を担い、住田町の木材を使用し、腕の確かな気仙大工がそろって関東の市場に注力し「気仙大工がつくる本格木造住宅」を木材の原産地から提案してきました。
しかし時代の流れもあり、本格木造住宅から全国的に住宅メーカーのローコスト住宅に需要が大きく変わり、最近では厳しい状況が続いていました。第3セクターから徐々に民間型企業へと移行しつつある中6代目社長となった中野氏は、これまでのように森づくりに始まり、木材の加工製造から建築まで、地域完全循環型の新築木造住宅メインの建築業だけでは、未来はないと考えていました。さらに追いうちをかけるように襲ったコロナ感染拡大の影響に、熟練の気仙大工を抱える経営者として、独り苦しい日々を過ごしていました。
想像もしなかった社員の言葉

そんな中でひょっこり会社を突然訪問したのは、岩手同友会の岩手リアス支部のメンバーでした。「最近顔見ないからさ」との言葉に、止めどなく言葉が溢れ出したのを記憶しています。
支部の仲間の呼び掛けに、その後危機感を持って半年間の第17期経営指針実践塾に参加、経営指針の成文化に挑戦しました。いよいよ最後、経営指針の発表という場面でした。一人で作り上げた指針書でしたが、社員全員が仕事を止めてホテルの発表の場に駆け付けました。「受注が極端に減り、社長が苦しんでいるのはみんなわかっていた。横で見ていて、いつ私たちに相談してくれるのだろう、とみんなで話していた。社長、何でも言ってください」感動のあまり泣き崩れたのは社長でした。
気仙大工は岩手県気仙地方(藩政期は伊達領)の大工の呼称です。江戸時代は、出稼ぎを中心とした大工集団をつくり、民家はもちろん堂宮から建具、細工もこなす多能な一団でした。中野氏はそんな彼らに気遣いし、大型受注を取ることが思考の中心になっていたのでした。
技術の伝承と教育の場としての住田町
これまで住田町が培ってきた地域で完全に循環する森林業、建築業は、見方を変えれば、伐採前の山林や製材過程を見てもらい町産材の魅力を伝える、町全体が展示場の役割も果たします。そして森は次代を担う子どもたちへの学習の場でもあり、森、木と触れ合える体験の場にもなります。
またそれぞれの分野のベテランの皆さんに教えを受けながら、森林整備や製材技術、果ては気仙大工の技術の伝承まで受けることができる、技術の伝承と教育の場にもなっていきます。
地域を見回すと、歴史を重ねてきた気仙大工を中心とした技術者集団がそろっていました。屋根板金の分野では、神社仏閣の屋根や壁面の細かい細工ができる全国でも屈指のプロ集団がいました。塗装の分野では、一般的な左官業の技術も習得している専門家がいました。大震災で大活躍した水道、電気インフラの専門家もそろっています。そして振り返ると、木材加工を得意とする製材業の皆さんもちゃんと控えてくれていました。
実は目の前にあった新事業の芽

経営指針の発表から間もなく、ある陸前高田の惣菜店から注文を受けたのは、オープンテラスの木をふんだんに使用した青空が生える屋根と、気仙杉を丸ごと使ったテーブルでした。社員の大工さんに相談し、たった2日で生まれたそのクオリティーは、まさにオーダーメイドの世界に一つしかないどっしりとした存在感。木本来の特色を最大限に生かした新提案でした。
中野氏は話します。「経営指針実践塾のレジュメのはじめに、いつも『学ぶとは誠実を胸に刻むこと、教えるとは共に希望を語ること』と書いてありました。まさにここに尽きると思います。投げ出しそうになったとき、苦しくなったとき、地域で手を離さずいてくれる仲間が必ずいます。そして一緒に頑張ってきた社員がいます。そこに気づいたとき、実はすぐそばに、新たな付加価値を生み出す連携や新事業の芽がたくさんあることがわかりました。地域循環型社会への取り組みこそが、私たちの企業像・使命と思います」。
積み重ね取り組んで来た歴史、地域の上に新たな時代を切り拓くヒントがあります。
経営理念
私たちは、木本来の特色を最大限に生かし、豊かな木の住まいを提供します。
私たちは、気づかいを通じて自然を育み、地域社会と地球の未来に貢献します。
私たちは、全ての出会いに感謝し、互いに尊重し学び合いながら成長します。
住田住宅産業(株) | |
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創業 | 1982年 |
資本金 | 2,050万円 |
社員数 | 6名 |
住所 | 〒029-2311 岩手県気仙郡住田町世田米日向61-1 |
電話 | 0192-46-2465 |
URL | https://www.sumita-j.com/ |