【第14回】"ヒト"の幸せが生む競争力 親和自動車(株) 代表取締役 櫻井 大樹氏(兵庫)

親和自動車(株) 代表取締役 櫻井 大樹氏(兵庫)

 親和自動車(株)(櫻井大樹代表取締役、兵庫同友会会員)は、創業60年を迎える「働く車」の整備・販売を行う企業です。同社を率いる櫻井大樹氏は、経営の根幹として「人が幸せに働ける職場こそが持続可能な競争力の源泉である」という考え方を掲げ、その実現に向けた櫻井氏の軸は、「感謝の心を持つこと」、「誰に対しても感動させること」、そして「根拠のない自信を持つこと」の3点です。

回復思考で会社再建

 櫻井氏が27歳で三代目として会社を継承した11年前、親和自動車は困難な状況にありました。十数年にわたる赤字経営に苦しみ、両親の顔は暗く、社員も覇気がなく、リストラや保険解約を迫られるほどでした。

 しかし、櫻井氏は自身の強みである「回復思考」(60点を100点に引き上げるのが得意)を信じ、「この会社は絶対まだ伸びる」と確信。再出発にあたり、まず着手したのが、会社の構造的な問題に対する徹底的な「メス入れ」でした。

1. 5S活動(環境整備)の徹底:会社が抱えていた負のスパイラル(整理整頓の不足、生産性低下、士気低下)を断ち切るため、櫻井氏は、事務所や工場に対し、約3カ月間、1人で黙々と整理整頓を実施。社員からの反発はあったものの、社長が率先して会社を変える姿勢を示すことで、環境を整えて成果が出せる準備を整えるという狙いがありました。

2. 内製化の推進:以前は手間のかかる仕事をすべて外注に頼ることで、粗利が外部に流出し、技術力も低下していました。櫻井氏は、お客さまから依頼されることは「何でもやる」と決め、エアコン修理、鈑金、レッカー作業に至るまで、可能な限り内製化を推進。その結果、利益が増加し、投資が可能となるプラスのスパイラルが生まれました。

3. 付加価値経営への転換:かつて「安さこそ正義」として仕事を受けていたため、車検後の故障を招き、信用を失っていました。主要顧客が法人である同社にとって重要なのは、「お客さまの儲けの手助けをすること」であるという認識に至ります。すなわち、「壊れない車」を作り、常に仕事ができる環境を提供すること。60年間のデータ蓄積に基づいた提案を強化することで、単価が上昇し、信用が生まれる好循環を生み出しました。

社員への感謝と仕組み化

 会社を少しずつ変え、業績が上向き始めた頃、櫻井氏は社員との間に違和感を抱き、同友会の経営指針書作成セミナーに参加。合宿で会社の歴史を深く掘り下げた際、本当に苦しい赤字の時代を支えてくれたのは、他ならぬ社員たちであったと改めて気づかされました。かつて「自分より能力が低い」と思っていた社員たちへの認識が変わり、深い感謝の念が生まれたといいます。

 この気づきを機に、櫻井氏は、自らが現場で動くプレイヤーから、「みんなが動ける仕組み」を構築するマネジメントへの移行を決意。経営指針書を基にした実践は、当初、社員から「何してんの?」という冷ややかな反応を受けましたが、櫻井氏は実行を貫きました。具体的な施策は以下の通りです。

1.コミュニケーションの仕組み化: 会議がなかった会社に、毎月の意見交換会や、半期に一度の個人面談を導入。個人面談は、スタッフが抱える課題を知る重要な機会となっています。

2.特性の理解に基づく仕組み作り: EG研修(思考・行動特性)を実施し、社員にマニュアルを必要とする特性が多いことが判明したため、指針書やマニュアルの整備の必要性が再認識されました。

3.幸福度の追求への転換: 櫻井氏の考え方は、「儲かったら給料を上げる」のではなく、「幸せな社員がいるから儲かる」というものへと変化しました。給与、ゆとり、笑顔など、社員が幸せな環境を整備することが最優先され、会社は彼らの自己実現を手伝う場であるという方針が確立されました。

親心をもって、和の心で接する

 これらの施策を実行し続けた結果、社内アンケートでは、社員の多くが「やりがいを持って仕事をしている」と回答するまでに変貌を遂げました。社員は自発的に理念唱和や改善提案を行うようになり、職場には笑顔が増加しています。

 親和自動車の成長は、掲げたビジョンを年間スケジュール化し、着実に実行していく姿勢によって支えられています。そして、社名の由来である「親心をもって、和の心で接する」という姿勢を忘れず、根拠のない自信を持って一歩ずつ前進し続けることが、同社の挑戦を支える揺るぎない原動力となっています。

親和自動車(株)
創業 1966年
資本金 1,000万円
年商 3億5,000万円
従業員数 20名
事業内容 特殊自動車整備・販売・レンタル・保険・鈑金・塗装・レッカー
住所 姫路市花田町加納原田720-3
電話 079-252-5533
URL http://shinwa-automobile.jp/