
(株)どんぐり 代表取締役社長 野尻 雅之氏(北海道)
札幌市民の定番『ちくわパン』で有名なパン屋『どんぐり』を経営する野尻氏((株)どんぐり代表取締役社長、北海道同友会会員)。社員のアイデアでおむすび専門店の出店を実現し、研修も自分たちで考案するなど、全社一丸となり日本で1番地元の人に応援されるパン屋をめざしています。
挫折から始まったキャリア
野尻氏は、創業者である両親の背中を見て育ちました。高校はスポーツ推薦で入学しますが附属の大学へは行けず、大学受験に惨敗。見かねた父からカナダ行きの航空券を渡され、4年間の海外生活を経験します。その後、居酒屋勤務を経て2003年に25歳で入社し、製造現場からキャリアをスタートさせて31歳で社長に就任しました。2006年に同友会大学を卒業、現在は理事・札幌支部副幹事長を務めています。
現場主導で生まれる「ワクワク」の商品・店づくり

同社は、札幌市内にパン屋11店舗、おむすび屋1店舗、函館に地元の同業者とのコラボ店1店舗を出店しています。1店舗あたり約130種類の商品を取り揃え、1日平均1,200名の来客があります。各店舗には約60名の社員が所属し、常時半数が勤務する体制を整えています。
最大の特徴は、店舗ごとの裁量が大きく、社員が主体的に商品開発や店舗運営に関わっている点です。同社は年間500~600品もの新商品が店舗の裁量で生まれます。また「焼き立て」にこだわって閉店1時間前まで商品を製造し続け、その日の売れ行きにあわせて製造するタイミングだけではなく種類や個数まで社員自ら考え、臨機応変に対応します。仕事帰りに焼き立てのパンを求めて来店があり、17時~18時の売り上げが昼を超える店舗も存在します。こうした「ワクワクする店づくり」が、顧客の支持を集めています。
社員の“やりたい”を形に

人材育成にも力を入れており、社内研修機関「どんぐりアカデミー」では、社員の主体性を育む研修を実施しています。入社2年目の社員を対象とした東京研修では、人気店の視察を通じて「なぜ人が集まるのか」を考え、帰社後には商品開発や新たな販売方法に挑戦してもらい、数カ月後に結果報告会を実施します。学びを実践につなげる社内研修は、社員の成長を促す場となっています。
あるとき、パン製造を担当していた社員が「パン以外でもワクワクを届けられるのでは」と、おむすび屋の企画書を提出しました。野尻氏はその熱意を受け止め、その社員を店長に任命。結果として、売上・利益ともに安定した店舗運営が実現しています。
野尻氏は「会社のために仕事をするのではなく、自分の人生をよくするためにどんぐりを使ってほしい」と社員に伝えています。これは、社員一人一人が自分事として仕事に向き合うことを促すメッセージです。社員の挑戦に対して「失敗しそうになればサポートするから、やってみて」と背中を押す文化が、同社の社風になっています。
地域と共に育ち、感情に寄り添う経営
2025年8月に地域活性化の取り組みとして、旭川市買物公園再開発に参画しました。野尻氏は出店に消極的でしたが、旭川市出身の幹部社員が「やってみたい」と手を挙げ、別会社を設立し出店しました。オープン時には、元社員や他店舗の社員が自発的に応援に駆けつけ、制服の違う仲間たちが一丸となって店を支えました。この光景は、同社の社風がいかに社員の心に根付いているかを象徴しています。
野尻氏は、目に見える数字だけでなく、社員や顧客の「感情」に寄り添う経営を重視しています。どんなに技術が進歩しても、物事の始まりと終わりには人がいるからこそ、同社は「ワクワク」を軸に、人の心を動かす経営を追求しています。社員と共に育ち、地域と共に歩むその姿勢は、まさに「人を生かす経営」の実践です。
| (株)どんぐり | |
|---|---|
| 設立 | 1989年 |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 社員数 | 670名(正社員270名、パート・アルバイト400名) |
| 年商 | 45億円 |
| 事業内容 | パン、調理パン、菓子等の製造販売(製造小売業) |
| URL | https://www.donguri-bake.co.jp/ |










