【第41回】LinCを起点につながる縁 松屋旅館　代表　松谷 紀秀氏（山口）

松屋旅館　代表　松谷 紀秀氏（山口）

　山口県南西部に位置する宇部市は、瀬戸内有数の臨海工業地帯を形成する工業都市です。松屋旅館（松谷紀秀代表、山口同友会会員）は、プラントや工場設備の定期メンテナンスに県内外から訪れる建設作業員を主な顧客とした、長期滞在型の宿泊施設です。

心を強くした経営指針書

　松谷氏は2015年に同友会に入会。先代である母が急逝した2017年、計り知れない喪失感の中、経営指針成文化塾に参加しました。客観的に自社を評価でき、10年計画書を作成し、すぐに行動に移しました。その一つが事務所と調理場の移転です。情報収集をいち早く進めたことで、移転を計画より1年早く実現できた経験が大きな自信につながり、不安だった心を強くしてくれました。

　コロナ禍に事業の転換期を迎えても冷静にいられるのは、その指針書のおかげです。感染対策のため1部屋を複数人で利用することができなくなり、部屋単価は50％減少。さらに売上の40％を占める上得意の製油所の閉鎖が決定しました。しかし、指針書に同所の閉鎖の可能性を記し、対策を立てていたため落ち着いて対応できました。

地域の方にワクワクの体験を

　その対策の一つが2021年8月開設の多目的交流スペース「LinC（リンク）」です。調理場の2階にあり、音響設備を備え13名が収容できるこの施設は、会議やイベントなど、相談次第でどんな方法でも使用できます。松屋旅館の顧客の性質上、地域の方とのつながりが極端に少なく、自社を知ってもらう難しさを感じていた中、地域貢献も含め、地域の方にワクワクを体験していただきたいという思いでオープンしました。

　しかし時はコロナ禍、LinCのワクワクを体験するには感染対策が邪魔をしました。この2年間は対策をしながら少しずつイベントを行ってきましたが、地域の方に広く広報できる状態にはありませんでした。対策が緩和された今、いよいよ地域の方がワクワクしていただけるイベントが開催できます。現在はチョークアートや、ソプラノ歌手と一緒に歌うイベントなど、参加者それぞれの得意を生かせる体験型の企画が大変好評です。同友会の仲間とも連携し、お掃除ワンポイントアドバイスや、オーダースーツの展示説明会など、生活に役立つ主婦目線のイベントも企画中です。

　そして、元プロダーツ選手の松谷氏、「自分の得意を生かして、子どもたちにダーツを体験してもらい、ダーツの面白さを伝えていきたい」と話します。ダーツは、集中力が高まる、良いプレーの時は声を掛け合う、年齢や性別も関係なく、どんな方でも楽しめるスポーツです。夢は大きく、このLinCダーツから国体選手を出すことです。

　子どもたちが集うことはその家族とも知り合うチャンスです。「私の人となりを知っていただくことで、「あの人が経営しているところなら働きたい」と人材確保の間口が広がるのではないかとも思っています。まずは地域の方に知ってもらう。松屋旅館と共に私も地域に根づいていく覚悟です。「LinC（※）」という文字通り、地域がつながり、ネットワークを通じ、変革が起こせる、そして子どもたちが楽しみ、ワクワクを体験する場としてLinCを育てていきます」と松谷氏は語ります。

※link（つながり）・innovation（変革）・network（ネットワーク）・children（子供）
最後の大文字Ｃはcommunication（交流）・community（地域）・club（会）を意味しています。

○△□の思い

　地元の旬の食材を取り入れた手づくり料理に、プラス健康にと、松谷氏が管理栄養士の知識を生かして献立をしています。LinCが本格的に始動した今、次の目標は、できるだけ添加物を使わない、母の得意料理だった熊本風味付けの郷土料理を地域の方々に食していただくことです。その販売方法として宇部ではまだ珍しい冷凍自動販売機を計画しています。

　今年度、松谷氏は宇部支部長に就任しました。「コロナ禍という自分ではどうしようもない出来事が起こり、LinCの活用方法の相談に乗ってくれる人、企画を検討してくれる人、その多くは同友会の仲間でした。改めて仲間の大切さに気づけました。LinCの看板デザイン（○△□）のように、それぞれの個性が生かせて、その個性を認め合いながら一緒に輪を作っていく。地域・宇部支部の方々と共に（○△□）にワクワクし、それぞれが輝ける輪が広がるように一歩一歩前進していきます」と熱い思いを口にします。地域の注目企業として、松谷氏と松屋旅館のさらなる飛躍を楽しみにしています。

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