【第9回】すべての個性が報われる道を開く HIRAKUホールディングス(株) 代表取締役 中岡 崇氏(奈良)

HIRAKUホールディングス(株) 代表取締役 中岡 崇氏(奈良)

焼肉店の創業から思いがけない障害福祉の道へ

 奈良で生まれ育った中岡氏(HIRAKUホールディングス(株)代表取締役、奈良同友会会員)は、新卒で東京の大手コンサルティング会社に就職、人材採用・育成の分野で数多くの企業支援を手掛けていきました。しかし大学時代に地方創生を学んできた中岡氏は、多くの中小企業経営に触れるなかで、いつしか自身も生まれ故郷に貢献するような仕事をしたいと思うようになります。そして、観光が盛んであるものの宿泊者数は47都道府県中ワースト2位という奈良県で「観光客が集まるような奈良の名物居酒屋」を作ろうと、2020年3月に奈良の大和牛を使った焼肉店を創業しました。しかし時はコロナ禍の幕開けという最悪のタイミングで、非常に苦しい経営状況が続きました。

 そんな時に知り合いから「会社を譲りたい」と放課後等デイサービスのM&Aの話が舞い込み、思いがけなく障害福祉事業へ参入していくことになります。自身も社会人になってからADHDの診断を受けたという中岡氏は、子どものころから悩みつつ生きていくための知恵やテクニックを培ってきた“自分の経験そのもの”を、悩みに直面している子どもたちの支援に生かしたいと福祉事業に自分の道を見いだしました。

速く・広い事業展開で一気通貫の支援を実現へ

 事業は2021年の創業から2年の間に、めざましく広がっています。放課後デイサービスは、未就学や低学年児童の運動療育に特化した事業所、小中高生の学習や学校生活の支援をする事業所、中高生の就労を視野にコミュニケーションや社会人スキルを身につける事業所と、それぞれのライフステージに応じた支援を行う複数拠点を開設。合わせて就労継続支援AB多機能型事業として、グループ内の飲食業、美容業、職業紹介事業などと連携して障害を持つ方の職業訓練や実際の就業の場づくりを行っています。焼肉店の場合は肉を切り分ける作業やおしぼりを畳む作業など、最初から障害を持つ方を雇用するオペレーションを組み込んだ運営設計を行い、福祉の知識のない事業者が後から障害者雇用に取り組む場合とは異なる「障害特性に理解のある雇用の場」のモデルを示すことにもなっています。

 また2023年9月にオープンしたカフェでは、10月から難病や重度障害を持つ方が自宅からリモートで分身ロボット「OriHime」を操作して接客を行う運営をスタートする予定で、外出困難者の新しい社会参画の形として注目を集めています。このスピード感ある事業展開にあたっては、地銀が共同設立した社会インパクトファンドからの資金調達を得るなど、地域課題解決型事業を後押しする社会の機運もとらえ、自社事業の社会的意義、そしてめざしたい社会の姿を強く発信しています。

HIRAKUにこめた想い

 障害福祉業を始めてから作成した経営理念は「すべての個性が報われる道を開く」です。放課後デイサービスで出会う子どもたちやそのご家族から聞かれる将来への不安、「僕は障害があるから就職とかむずかしいかな」と自分の道を狭めてしまう言葉に、とにかく「そんなことはない」と伝えたいという中岡氏。自身も苦労や失敗をすることもありましたが、周りのサポートを得られたこと、高い集中力など特性ゆえにできたこともあると振り返り、まだ表に出ない才能や努力、悩みながらも自ら選択して進むその道が報われていってほしいと語ります。

 障害がなければ当たり前のようにある職業の選択肢を増やす、それは経済的な自立だけでなく精神的な自立をもサポートすることになると考えています。急速に展開しているビジネスモデルは、それ自体が地域における障害を持つ方の、障害者雇用への理解を進めることにつながり、そして「誰もが個性を楽しめる社会を創る」という自社の大きなビジョンにも近づきます。

HIRAKUホールディングス(株)
設立 2020年3月
創業 2021年6月
資本金 6,700万円(グループ合計・資本準備金含む)
事業内容 放課後等デイサービス・就労継続支援B型事業所、相談支援事業、職業紹介事業
本社住所 奈良県生駒市山崎町4-5 NDAビル5階
URL https://www.hirakugroup.com/