【第3回】変わり者2代目が挑戦し続ける人を大切にする経営 (有)阿部木工 代表取締役 阿部 祥太氏(愛媛)

(有)阿部木工 代表取締役 阿部 祥太氏(愛媛)

 かつての家具製造業界では職人の手による高額な婚礼家具が主力でしたが、バブル崩壊以降、需要は減少。住宅環境も変わり、作り付け家具の需要が増えてきました。

 (有)阿部木工(阿部祥太代表取締役、愛媛同友会会員)も経営環境の変化に乗って業態を変化させてきましたが、人材不足に苦労してきました。若い後継者である阿部氏は業界の常識にとらわれない取り組みを展開しています。

後継者としての入社と衝突

 阿部氏が家業入りしたのは2016年。先代である父親(2021年逝去)から「会社をたたもうと思う」と聞いたのがきっかけでした。同時に、理事だった父の勧めで愛媛同友会にも入会しました。

 当時24歳、県外のコンサル会社に勤めていた阿部氏は本人いわく「生意気」。会社をずっと支えてくれていた父やベテラン職人と衝突を繰り返す毎日でした。結果、計6名の社員が退社。同時期に、補助金を活用してドイツ製の三次元家具設計システムと最新鋭の機械を導入し、大幅な業務改善と効率化を実現しました。職種柄、職人依存になりがちですが、最先端のシステムを導入することで経験・技術が十分でないスタッフでも高品質の家具の組み立てが可能となりました。

常識外れの採用策 子育て世代女性の可能性

 この改革を機に採用の幅が広がると考え、事業承継した2018年にパート採用に踏み切ります。製造工程を切り分けて作業を細分化し、どんな人でも作業できる仕組みづくりに着手。また、システム機械の稼働時間をパートの働きやすい時間帯に集中させるなど柔軟な対応を行い、職場環境の改善に努めました。

 採用活動を進めていくと、子育てを機に家庭に入ったものの働きに出たいと考えている女性が多くいることが分かりました。しかし、子どもが小さいため短時間かつ扶養の範囲内で働きたいなど制約が多く働き先に困っている現実を知り、社会のニーズと自社の求人意欲がマッチすると確信。当初、父に反対されながらも進めたパート採用ですが、今では子育て世代の女性のパートが多く活躍しており、地域の雇用創出に貢献しています。

 また、子どもの行事や急な体調変化にも「お互い様」の社風が自然と出来上がり、家庭環境に配慮した働き方が実現され、社員もパートも定着。居心地の良い関係性ができ、同時にそれぞれの仕事への責任感が高まっていることを実感しているそうです。パートに担当してもらう作業工程の幅も着実に広がっています。今や社内の男女比が逆転し、5:3で女性が多い職場になりました。業界でも珍しく、少なくとも県内の同業では類を見ません。

新たな挑戦

 2024年には自社開発したオーダーキッチンのショールームも兼ねて本社をリニューアル。また、「小さな建築家になろう」というコンセプトで知育玩具の積み木を開発・販売するなど、自社のブランド化に大きな一歩を踏み出しています。

 果敢に新しいことに挑戦する、その根底にあるのは“人を大切に”という亡父の言葉です。「業績を上げ、スタッフの生活や家庭を守る覚悟が必要。そのために同友会で学び、よい会社をつくっていくことが自分の役割」と阿部氏。経営指針成文化セミナーを2020年から3年間受講し、社員とともに経営指針書を作成し、全社一丸で高みをめざして挑戦し続けています。

先代の想いを継いで

 「職人ではないところが経営者としての強みであり弱みでもある」と自認する阿部氏は、業界の常識にとらわれず、とりあえずやってみよう!の精神で行動し続け、事業承継から6年あまりで会社を成長させてきました。

 入社当時は衝突ばかりだった父に、今となっては会社を存続させてくれたこと、そしてお金では買えない人とのつながりを残してもらったことに感謝していると話します。残してもらったものを生かして、よりよくしていくために“人を大切に”し、進化し続ける阿部木工の今後に期待です。

(有)阿部木工
設立 1983年
資本金 800万円
従業員数 16名(内、パート・アルバイト10名) 男女比=6名:10名
年商 1億2,500万円
住所 〒791-1113 愛媛県松山市森松町 135-1
電話番号 089-976-2679
URL https://abe-mokkou.jp