
(株)佐野テック 代表取締役社長 佐野 貴代氏(三重)
「社長が完璧じゃないくらいが、社員はしっかりするんですよ」。三重県菰野町に本社を構える(株)佐野テックの佐野貴代氏(代表取締役社長、三重同友会会員)は、朗らかな笑顔でそう語ります。この言葉には、社員一人一人への深い信頼と、彼らの主体性を信じて未来を託す経営者の覚悟が込められています。創業90年を超える歴史を持つ同社が、今まさに実践している「人を生かす経営」の姿は、多くの企業が直面する課題解決のヒントに満ちています。
コロナ禍でも止めなかった「人」への投資

同社の「人を生かす経営」は、採用の段階から始まっています。多くの企業が採用を手控えたコロナ禍においても、佐野テックは新卒採用を継続しました。「採用を止めれば、その下の世代への教育の連鎖も途切れてしまう。会社にとって一番大切な『人づくり』を止めるわけにはいかない」と佐野氏は振り返り、この一貫した姿勢が社員の安心と会社への信頼につながっています。
同社の採用にはユニークなエピソードが多くあります。生き生きと働く兄の姿に感化されてパートとして入社した弟は、かつて集団生活や人前に出るのが苦手でしたが、今では正社員として活躍しています。また、転職してきたある社員は、同社に配達販売に来るヤクルトレディの娘さんです。こうしたリファラル採用が自然発生的に生まれるのは、社員が自社を「大切な人に紹介したい」と思える魅力的な職場であることの何よりの証です。
〝あえて壊す〟ことで組織は活性化する

社員の定着率が高い同社ですが、佐野氏は現状に甘んじることなく、常に組織の活性化を模索しています。その最も大胆な取り組みが、近年に断行した「課長のシャッフル」です。これまで組立、溶接、加工といった各部署で専門性を高めてきた課長たちの担当を、すべて入れ替えました。「長年同じ部署にいると、良くも悪くも『あうんの呼吸』で仕事が回るようになる。でも、それが逆に組織の硬直化や視野の狭さにつながることもある」と佐野氏はその狙いを語ります。畑違いの部署に異動した課長たちは、当初こそ戸惑いを見せたものの、今では新たな視点で業務改善提案を行うなど、組織に新しい風を吹き込んでいます。この改革は、課長自身の多能工化を促すだけでなく、部下である社員たちが「自分たちが新しい課長を支えなければ」という当事者意識を持つきっかけにもなりました。
さらに、部長と課長の間に「次長」という役職を新たに設置。各部署の次世代リーダーを育成すると同時に、組織内の情報伝達や意思決定をより円滑にする体制を整えました。すべては、「私が居なくても会社がしっかり回る組織」という最終目標を見据えての一手です。
制度と風土で支える働きやすさ

社員の主体性を育む土壌となっているのが、風通しの良い社風と、それを支えるユニークな制度です。同社では、有給休暇を取得する際に理由を詮索されることはありません。「みんなが遠慮なく休むから、自分も休みやすい」という好循環が生まれています。
また、「ATO会(遊ぶ・楽しい・面白い の頭文字)」と名付けられた社内サークルが、社員間のコミュニケーションを深める上で大きな役割を果たしています。ボーリング大会や夏祭りといったレクリエーションの企画・運営はすべて社員が主体となって行いますが、この会は単なる親睦団体ではありません。社員から毎月会費を集め、冠婚葬祭時の相互扶助の機能も担っています。会社という組織の枠を超えた、人と人との温かい繋がりが、社員の心のセーフティネットとなっているのです。
佐野氏が「最終的に評価するのは、数字やスキルだけじゃない。人間性や周りと協力できるかどうかが一番大事」と語る通り、佐野テックでは、目先の利益を追うのではなく、社員一人一人が安心して挑戦し、成長できる環境づくりが何よりも優先されています。
社長がすべてを抱え込まないからこそ、社員は自ら考え、行動する。佐野氏の大胆な組織改革と社員への揺ぎない信頼をもとに、常に進化を続ける佐野テックの挑戦は、これからも続いていきます。
| (株)佐野テック | |
|---|---|
| 設立 | 1983年1月(創業 1932年3月) |
| 資本金 | 3,000万円 |
| 従業員数 | 正社員68名(うち女性20名)、パート6名、役員7名 |
| 年商 | 29.5億円(第43期・決算日7月20日) |
| 事業内容 | 【インフラ事業部】 一般・高速道路、橋梁関連部品等の製造(支承金物、ジョイント、落橋防止金物など)、鉄道部品などの倉庫業 【建築事業部】 鉄骨・木造建築の新築・増改築等の設計から施工(住宅、工場、倉庫、店舗、公共建物など) |
| 住所 | 〒510-1233 三重県三重郡菰野町大字千草5051番地9 |
| 電話番号 | 059-391-0200 |
| URL | https://www.sano-tec.jp/ |










