【第43回】先生がいない!?司法書士事務所の「パートナー経営」とは 司法書士法人やまぐち中央事務所 代表社員 松井 成夫氏(山口)

司法書士法人やまぐち中央事務所 代表社員 松井 成夫氏(山口)

 司法書士事務所として県内最大級の規模を誇る司法書士法人やまぐち中央事務所(松井成夫代表社員、山口同友会会員)。2005年に松井氏が共同経営者とともに立ち上げた事務所は、今や26名のスタッフを抱える組織へと成長。急成長のきっかけは「もし僕に何かあったら、お客さまはどうなる?」と、ふと芽生えた松井氏の「不安」でした。お客さまに永続的な「安心」を提供するため、経営者の力を超えた「器」が必要だ――その決意が、組織化への大きな一歩となりました。

鈍感から生まれた、最強の右腕

 組織が大きくなるにつれ、社員との連携という壁にぶつかります。「僕は超鈍感なんです」と笑う松井氏。かつて自分で面接して採用した結果、組織の調和を乱しているのに気がつかなかった、という苦い経験がありました。

 そこで下した決断は、信頼できる社員の加納久美子氏にまるっとお任せすること。加納氏は2014年にパートとして入社後、正社員に登用。現在は事務スタッフの仕事に加え、採用面接、毎月行うスタッフ全員との1対1のトークタイムを担当。「顔を見て話す時間を大切にしています。松井さんには直接言えない小さな悩みも、ワンクッション置くことで解消しやすくなるんじゃないかと思って」と加納氏。経営者が自分の弱さを認め、現場感のある社員に委ねることが、風通しのよい組織づくりにつながっています。

 採用の最終段階では、松井氏自身が「将来ビジョン」や「求める人物像」を明文化した資料を手渡して説明。この資料は社内でも共有され「自社が何を大切にし、どんな仲間を求めているか」を共通認識として持ち、同じ価値観のもとで育ち合う土台となっています。また、「先生」という呼び方は禁止。みんなが対等な「パートナー」として尊重し合う関係性が根づいています。

 「社員と会社の方向性を合わせれば、社員は自分のペースで成長してくれます。その成長が集まれば、経営者の器を超えた大きく強い組織になる」と松井氏。現在、最年少21歳のスタッフがAI推進のキーマンを担うなど、年齢に関係なく主体性を発揮できる環境が整えられています。

 一方、加納氏も松井氏の背中を追うように、徐々に「自分でやらない」ことを心がけているそうです。指示を受ける側から出す側へ、スタッフの主体性を育む存在に進化する加納氏の姿は、松井氏が掲げる組織論の体現そのものです。

同友会後は何かが変わる!?

 「松井さんが同友会へ出かけると、必ず何かが変わるんです」と加納氏。人事評価制度の導入も、個人面談の実施も、営業利益の3分の1をボーナスとして還元する仕組みも、すべて同友会がきっかけでした。積極的に同友会活動へ関わり、「時期をみて学びを必ず実践する」行動力こそが、組織成長の鍵のようです。

 昨年から専門分野ごとに部門を設置し、年に1回全社員が集まる「経営企画発表会」を開催。各部門長が方針と目標を自分の言葉で語ることで、リーダーとしての自覚と責任感が育まれ、社員教育の場にもなっています。

2040年を見据えた、未来の事業計画

 AI台頭による士業業界の縮小が囁かれる中、「人がやらなくてもいい作業はAIに、空いた時間はお客さまとの対話やスタッフ同士の心の交流に」と松井氏。効率化により生み出された時間は、そのまま事務所が掲げる未来のビジョンへとつながっています。

 「2040年までに独居世帯が急増すると思います。そんな世の中で、私たちが家族のように寄り添い、生前からお亡くなりになった後まで、一生涯責任を持ってサポートする存在になりたい」と松井氏。

 このミッションの実現に不可欠なのが「組織の永続性」です。お客さまを最後まで支えるためには、必ず誰かがバトンを受け継がなければならない。そのために、次世代を担う若い力の採用とチームで支える組織づくりに全力を注いでいます。

――取材を終えて
 「今の組織があるのは間違いなく加納さんのおかげ。僕より彼女がいなくなる方が会社にとっては大打撃。彼女を見つけたことこそが、僕の運のよさですね」と松井氏。

 社員を信じて任せ、共に同じ未来を描く。「安心」という経営理念は、顧客・社員・地域社会の三方に対して具体的な責任を果たすための指針として定義されています。同法人が体現する「パートナー経営」に、中小企業経営の未来を照らす、確かな希望がありました。

司法書士法人やまぐち中央事務所
設立 2005年5月
資本金 200万円
従業員数 26名
年商 2億1,000万円
事業内容 司法書士業(不動産登記業務・裁判所提出書類作成業務・成年後見業務・商業登記業務・簡易裁判所訴訟代理)
所在地 防府市駅南町7-37
電話番号 0835-22-6533
URL https://www.y-central-office.jp/